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EXPERT INTERVIEW

達人案内 写真家 上田大作さん

厳しいからこそ
命が輝く、
極寒の絶景スポットを
追い求めて

from 風蓮湖、大雪山 etc.

SHORT TRIP Guides - 北海道の小さな旅ガイド edited by コロカル
SHORT TRIP Guides - 北海道の小さな旅ガイド edited by コロカル

北海道の知られざる魅力を、その道の達人たちに聞くこのコーナー。
第4回は、道内各地を遊牧民のようにめぐりながら、人や自然をとらえる写真家・
上田大作さんに、撮影で訪れたい冬の絶景スポットを教えてもらいました。

年間250日以上、車やテントで暮らしながら撮影する

田大作さんは、道東地方や大雪山国立公園など、北海道の雄大な自然が感じられるエリアの撮影を続けている写真家です。12月中旬に、道東をめぐっていた上田さんと待ち合わせをしたポイントは、中標津空港から約40分、知床半島と根室半島のあいだに位置する野付半島です。海に突き出たかぎ針状のこの半島は全長が26キロで、砂の堆積によってできた砂嘴(さし)と呼ばれ、日本最大の砂の半島として知られています。

野付湾は半分以上が氷で覆われていました。奥に見えるのは、海水に浸食され風化したミズナラが立ち枯れのままに残る「ナラワラ」。

あたりはそろそろ夕暮れどき。外気温はマイナス7度。待ち合わせの場所だった〈野付半島ネイチャーセンター〉に車を走らせていると、湾に張った氷の上を歩くシカの群れに出会いました。

そのなかに氷を踏み外したのか、海面でもがいているシカが2頭。なんとか氷に足をかけて這い上がろうとする姿を見つめていたところ、後ろから車がやってきて、なかから上田さんが現れました。カメラを肩に抱えて、シカの群れの方向へ、サッと近づいていく上田さん。撮影をしている上田さんの後を追って、わたしたちも雪のなかへと分け入りました。

写真左と中央に海に落ちてしまったシカが2頭。この後、自力で這い上がり群れのもとへ走っていきました。

大きな望遠レンズをつけたカメラを軽々と抱え、雪のなかを颯爽と歩く上田さん。

「珍しい映像が撮れましたね。シカはエサを求めて氷上を移動するんですが、氷の薄いところが見分けられないので、海に落ちてしまうこともあるんですよ」
沈む太陽を見ながら眩しそうに、上田さんは語りかけてくれました。 湾に張った氷に光が反射して、あたりはピンクとブルーのたとえようもなく繊細な色の世界が広がっていました。 景色に引き込まれると同時に、太陽の光が弱くなるにつれて、風が凍るように冷たく感じられ、体の芯まで冷えきっていくような感覚も味わいました。

そんななかで、手袋もせずに上田さんはシャッターを押していたのです。おそらく今日のような日は、彼にとっては“穏やかな気候”と言うのかもしれない。2日間にわたって上田さんにインタビューをするうちに、初めて出会ったこの時間のことを、そんなふうに思うようになりました。

野付半島の夕暮れ。

世界観を確立するための修行の場として選んだ北海道

上田さんが写真家になろうと思ったきっかけは、アメリカの写真家 ジム・ブランデンバーグが撮影した、ホワイトウルフの写真を見たことだったと言います。当時、上田さんは神戸の機械メーカーに勤務していましたが、ブランデンバーグの世界に引き込まれ、またもともと旅好きで自然も好きだったことから、会社を辞めて写真家になることを決意。1年ほど海外を旅した後に、2006年から北海道で撮影を開始したそうです。

「修行の場として選んだのが北海道でした。自分が思うような写真を撮れるようになるまでに、10年はかかると思っていて」

雪のなかを慣れた足取りで、どんどん奥へと進んでいく上田さん。

上田さんの撮影スタイルは、徹底的に現場に張りつくというものです。自分の興味のあるエリアを集中的に撮影するようにしていて、ある年は大雪山国立公園でテント暮らしを続けながら、約100日間撮影をしたことも。現在は、知床を活動の中心に据えており、ソーラーパネルなどを設置した車で移動し、自家発電で電力を供給しながら生活し、寝泊まりするのはトレーラーハウス。愛車であるハイエースで牽引して、各地をめぐっているのです。

「僕は土地にいつきながら、そこに住む人や気温だとか風だとか、あらゆるものを五感で感じながら撮影するというのがスタイルなんです」

1年前からトレーラーハウスを使いはじめたそうで、それまで寝泊まりの多くはこのハイエース。厳冬期には車内がマイナス20度になることも。

上田さんが写真の修行をするなかで追い求めていたのは、自分なりのフィールドです。近年、美しい風景が撮影できるスポットについての情報は、ネットや雑誌などにあふれています。これらの情報を仕入れ、撮影にちょうどよいとされる時期だけスポットに立ち寄るプロやアマチュアのカメラマンは多いそうですが、こうした人々とは一線を画した、独自の風景を探していきました。

「道東で誰も撮影していない場所を探していたときに、『あっここだな』と感じたのが風蓮湖でした」

2016年の初めにも上田さんは風蓮湖の撮影を行いました。2か月間ベースキャンプを湖岸に張っていたところ、多くの仲間が訪ねてきたそう。

風蓮湖は、野付半島から1時間ほど南へ車を走らせた場所にあり、根室市と別海町にまたがる汽水湖です。上田さんは2009年にこの湖に出合ってから、厳冬期のオオワシやオジロワシの撮影をしていったそうです。しかし撮影を続けるうちに、そもそもなぜワシが風蓮湖にやってくるのか、その奥にあるものを探りたいという衝動を感じたと言います。

「ただ表面的なものをとらえるだけでは足りない。人の営みを映し出さないと、その奥にあるものは見えてこないと思いました」

湖一面に氷が張る厳冬期。ここでは伝統的な漁法である〈氷下待ち網漁〉が行われます(詳しくはスポット1で)。ワシたちが集まってくるのは、水揚げされた魚のうち、市場に出せない雑魚を漁師さんたちが氷上に放置するため。人間が動物たちの食物連鎖に影響を与えていることを上田さんは実感し、この体験から自然と人との共生というテーマが自分のなかではっきりとしてきたと言います。

風蓮湖にはいくつかの集落が点在、その多くは漁業で生計を立てているそう。漁へと出る小さな港を上田さんは案内してくれました。

以来、上田さんは4年間かけて、風蓮湖とそこに住む人々の営みを追い続けていきました。この地域の集落をめぐり、早朝、漁師さんが出かける前から漁場でスタンバイし、雪で荒れている日も、強風が吹きつける日も休むことなく撮影を続けました。ときには漁の手伝いもしながら信頼関係を築いていったそうです。

「被写体にほれ込んだら、僕はとことんまで付き合います。どんな角度で撮ってもいやな顔をしない、向こうが僕を空気のように思ってくれるようになるまでね。人間関係が密にならないと絶対見せてくれない瞬間や表情があるんです。漁師さんたちは輝いていますよ。やっぱり自然のなかで生きる人というのは、生命の力強さが伝わってくる。凛として生きている姿に魅せられます」

上田大作「氷下待ち網漁の網を引く漁師」 風蓮湖の漁師さんの姿をとらえた1枚。

シャッターを押さなくても、どんな写真が撮れるのかわかる

2013年に上田さんは、風蓮湖の写真シリーズで〈田淵行男賞〉を受賞しました。田淵行男は山岳写真家であり昆虫の生態学者で、この賞は山岳や自然を撮影する新人写真家の発掘を目的したもの。上田さんがまとまって作品を発表したのは、これが初めてのこと。北海道で撮影を開始してから7年が経っていました。

「納得いくものができるまでは、写真を世に出すものではないと思っていました。ただ表面的に美しいものやかわいいものばかりを撮っていてもおもしろくないし、自分の世界観を築くためには、時間をかけてしっかり撮影したいという想いがあったんですね」

可能な限り自然に身を置き写真と向き合ってきた上田さんは、いまシャッターを押さなくても、ここでどんな写真が撮れるのかがわかるようになったそうです。

「例えば、この場所であと何時間くらい粘れば、自分がイメージしている映像が明確に撮れるかがわかるんです。もう頭のなかにイメージができているんですよ」

例年1月には完全に氷に覆われるという風蓮湖。今年は氷が張る速度が早いと上田さん。

人生が変わる1枚を撮るために、すべてを捧げる

「いまは知床を集中的に撮影しています。10年前から知床に入っていますが、自然の見つめ方がまったく違ってきたように感じます。点と点がようやく結びついて線になり始めたんですね。写真家は、1枚の写真ではなく、100枚とか200枚の写真で表現をしていくものだから、そのなかで、どうしても必要だと思う写真が、ジグソーパズルのピースのように見えてくるようになりました」

いま目指しているのは、自らの世界観を完成させるパズルのピースをすべて埋めること。

「例えば厳冬期の山に登って写真を撮ったら、いいものがとれるだろうなと誰しも考えます。でも、それを実行するには壁がありますよね。ただし壁で止まってしまうとその先がなくなってしまう。その1枚が撮れるか撮れないかによって、人生が変わるのであれば、どんなことをしても僕は撮るべきだと思っているんです」

「この1枚」を撮るためなら、生き方のすべてを捧げても構わない。真っ直ぐ前を見つめる上田さんの眼差しには、わたしたちの想像をはるかに超えるような、強い信念が感じられました。 そして上田さんは、「何かが欲しいなら、何かを手放せばいいんですよ。何もかもをつかもうと思うから身動きが取れなくなる」とつぶやくように語りました。

その言葉通り、上田さんは「自然写真を撮影するには定住地を持たないノマド生活がベストとだと思っている」と、時間と経費を節約でき、何より常にフィールドに身を置ける車中泊をしながら移動するスタイルを貫き、「貧乏したって構わない」と、時間をかけて納得できるまで撮影に臨み、作品を発表しています。

「うちに秘めた美しさ」を探す旅へと出るために

写真の道を極めようとする求道者のような上田さんに、今回、北の自然が感じられる絶景スポットを紹介してもらうというのは、本当に貴重な機会!

「冬は西高東低の気圧配置になりますから、日本海側は雪が多くて太陽がほとんど出てこなくなるので、選んだスポットは日照率が高い太平洋側やオホーツク海側です。やっぱり太陽が出ると、いい写真が撮りやすいですからね」

日照率が高いという上田さんの言葉通り、取材の日も晴天。別海町の尾岱沼地区から美しい朝日を見ることができました。

次ページから紹介する4つのスポットは、長年上田さんが撮影している場所のなかでも、比較的一般の人がアクセスしやすいところ。もし、読者のみなさんがこれらを訪ねることがあるならば、ぜひ長く滞在してみてほしいと思います。自然とそこで営みを続ける人々と触れ合う体験を通じて、きっとその場所の真の魅力が浮かび上がってくるはず。上田さんの言葉を借りるならば、それは「うちに秘めた美しさ」を探す旅になるのではないかと思います。

厳しくなればなるほど、見えるものが変わってくる

北海道を11年間撮影してきた上田さんは、いま北方四島やサハリンでも撮影をしてみたいという夢を持っているそうです。

「北海道に冬鳥としてやってくるオオワシの繁殖地はサハリンなどです。また、北方から人が日本に下りてきたという歴史もある。そして何よりまだ原始的な自然がたくさん残っていますから」

野付半島でコロカル取材班が出会ったオオワシ。

野付半島からは国後島がよく見えます。もっとも近い部分ではわずか16キロしか離れていないのだそう。

北海道から北方へ。生命のつながりを追い求めたパズルのピースを埋める旅に終わりはありません。 上田さんが、これほどまでに“北の大地”に魅せられる理由とは?

「北の魅力は、やっぱり厳しさです。厳しくなればなるほど、見えてくるものとらえられるものが違ってきます。より生命の力強さが感じられる。だから、いつも冬がもっともっと厳しくなってくれればと思っているんです」

「冬が厳しくなれば」と語ったとき、上田さんの目がギラリと光ったように感じられました。その目は、まだ撮れていない「この1枚」を必ずつかみ取りたい、そんなハンターのような眼差しだったのかもしれません。別れ際に、「自分のことを話す機会は滅多にないので、もう1年分話したような気持ちがします。これからまた山にこもりますね」と笑顔を見せ、次の目的地である羅臼の漁師さんの元へと去っていきました。

Information

野付半島ネイチャーセンター

住所 北海道野付郡別海町野付 63番地

TEL 0153-82-1270

開館時間 11月~3月/9:00~16:00、4月〜10月/9:00〜17:00

休館日 年末年始

Web http://notsuke.jp/

※毎年1月〜3月まで〈トドワラ・氷平線ウォークツアー〉を開催。結氷した野付湾を歩くという幻想的な体験ができます。詳しくはこちらから → http://betsukai-kanko.jp/taikenkanko/winter_todowarawalk/

Profile

上田 大作(うえだ だいさく)

写真家。1977年山口県下関市に生まれる。2005年写真家になることを志し、務めていた会社を退職。タンザニアのセレンゲティ国立公園やンゴロンゴロ保全地域、ガラパゴス諸島などを見聞して歩く。2006年から、北海道の道東地方や大雪山国立公園をおもなフィールドとし撮影を始める。2013年「風連湖—冬の物語」にて田淵行男賞を受賞。受賞記念写真展をニコンサロン(新宿・大阪)で開催。同年〈Imagine Wildlife〉を設立。http://daisaku-ueda.com/
上田さんが参加している写真展『NATURE CRAZYS』(ライフスケープ編集長が推す“常識やぶり”な若き写真家たち)が、富士フイルムフォトサロン仙台(2017年1月12日~2月7日)と富士フイルムフォトサロン名古屋(5月5日〜11日)で開催。 https://www.fujifilm.co.jp/photosalon/sendai/17011201.html

photo:yayoi arimoto text:michiko kurushima

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