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SPOT 01

達人案内 作家 池澤夏樹さん

開拓の歴史を今に伝える、
長編小説『静かな大地』の
舞台となる日高エリアへ

from 北海道日高郡新ひだか町

SHORT TRIP Guides - 北海道の小さな旅ガイド edited by コロカル
SHORT TRIP Guides - 北海道の小さな旅ガイド edited by コロカル

知るべき歴史が詰まっている、静内の物語とは

高の沿岸部、日高山脈を北東部に抱くまち、静内。作家 池澤夏樹さんが朝日新聞での連載をへて2003年に上梓した『静かな大地』(朝日文庫)の舞台で、新千歳空港から車で約1時間半のこのまちは、2006年の町村合併により〈新ひだか町〉となりました。

「静内に北海道的な広大さはなく、海のすぐそばに山が迫り、比較的温暖で雪も少なめな土地。隣まちの新冠(にいかっぷ)とともに、競走馬の産地です」

池澤さんの話のとおり、静内を含む新ひだか町はサラブレッドのふるさとと呼ばれ、日本一のサラブレッド産地として全国に名を馳せています。まちを流れる静内川沿いや海岸沿いには多くの牧場がひらかれ、次世代を担う駿馬はもちろん、日本を代表する名馬に出合える牧場見学も人気です。

通りがかりの牧場で、のんびりと草を食んでいた美しい馬たち。

第3回親鸞賞を受賞した『静かな大地』は池澤さんの曽祖父、原條 迂(すすむ)さんとその兄、新次郎さんをモデルに、歴史的事実とフィクションが織りまぜられた壮大な長編小説です。

現在の風景がつくられる前、まだ森林と原野に覆われていた静内の地へ、1871年、淡路島から徳島藩の546人が入植します。この中に、物語の主人公の宗形三郎と弟の志郎のモデルとなる新次郎さん、迂さんがいました。なぜ、彼らが淡路島を離れて入植しなければならなかったのか。日本の維新の歴史もひも解いているのもこの小説のおもしろさです。

物語では、父譲りの柔軟な気質を持った兄弟が、古くから静内の地に住まうアイヌ民族の少年オシアンクルと出会い、自然とともに暮らすアイヌの知恵に触れながらしだいに心を通わせていきます。
やがて立派に成長した兄の三郎は、静内の山あいでアイヌの人々とともに馬を中心とした宗形牧場の経営に乗り出します。同胞であるはずの和人(日本人)によるさまざまな抑圧や困難を越えながら、才気溢れる三郎と、馬や自然への深い知恵を持ったアイヌたちによって次第に繁栄していく宗形牧場。しかし、物語は衝撃のクライマックスへ……。

静内の新ひだか町図書館に残る『静内町史』には、池澤さんの母方の曾祖父の兄、原條新次郎さんのポートレートが。

作品を執筆するにあたり、池澤さんは静内に通い、調査や聞き取りを重ねました。
「書くという動機が非常にはっきりとしていた作品でした。原條新次郎は、戸長をしていたことから静内の町史にあちこち名前が出てくるし、サケの養殖を手がけたという記録も残っていたので、材料はいくらでもありました。あとは事実をなるべく歪めないように使いながら、物語を書こうと思いました」

静内では、「原條新次郎が牧場をつくった東別(かつては遠別)と静内のまちとの距離感を実際に歩きながら体で覚えていくといった、歴史的なファクトを見つけるのがおもしろかった」と話してくれました。

〈新ひだか町博物館〉には、宗形(原條)兄弟の故郷、徳島藩主 稲田九郎兵衛のもとに下った、北海道開拓への命となる文書が展示されている。

静内は、太平洋をのぞむ山あいのまちです。なかでも静内川河口近くの高台に位置する〈真歌公園〉の展望台は、まちなみや太平洋をパノラマで見渡せる絶景ポイント。ここは1669年、アイヌ民族の首長シャクシャインが最後の砦とした地でもあります。公園内には『静かな大地』の要となるアイヌ民族の歴史にふれられる〈新ひだか町アイヌ民俗資料館〉があり、ここにはさまざまな資料のほか、世界に3つしか残っていないという貴重なエゾオオカミの頭蓋骨が展示されています。建物の隣に建つ〈シャクシャイン記念館〉も合わせて立ち寄ってみては。

「物語に登場するアイヌの歴史や人名については、当時はご存命だった、アイヌ民族として初の参議院議員を務めた萱野茂さんの元に通って、一から十まで教えてもらいました。作中に登場するアイヌの人々の名前も、それぞれに込められた意味があるんですが、これも全部、萱野さんにつくってもらったんです」

現代にも根深く残るアイヌ民族の問題について、自らの作品を通して伝えることで、アイヌの人々へ向けられる社会の空気を変えてゆきたいと語る池澤さん。

「実際は、新次郎の牧場はアイヌの方たちと共同経営ではなかったのですが、フィクションとして、一緒につくりあげるというかたちをとりました。だから、迫害を受ける側に立って書くことができたのです」

夕暮れの太平洋。7〜10月は名産の日高コンブ漁が行われ、海岸にコンブがしきつめられる風物詩の風景も。

作品を書き上げた後、静内で行われた記念講演会に赴いた池澤さんは、その会場で「父が原條新次郎さんのお墓をずっと守っていました」と語る半田禮太郎さんに出会います。本作が刊行された頃、半田さんは、現在休耕田となっている新次郎の屋敷跡から錆びた斧を発見し、池澤さんに寄贈しました。その斧は現在、池澤さんのご自宅に飾られているそうです。

「斧が掘り起こされた屋敷跡には、半田さんが記念の標柱を建ててくださいました。彼は父親から『原條親方は、本当にみんなに慕われていた』と聞いていたそうです。ほかにも、僕がフィクションとして書いた部分が実際その通りだったというエピソードもうかがいました。不思議な巡り合わせですよね」

静内へ向かう途中に見かけた風景。車を走らせる間、たくさんの牧場が目に入ってきます。

池澤さん自らのルーツを辿りながらも、北海道のひとつの歴史的側面、アイヌ民族との関わりが淡々とした筆致で深く掘り下げられた『静かな大地』は、流れるような美しい文章に導かれて読み進めることができます。
近代化や文明化を通して日本人が手にしたもの、失ってきたものを見つめ直し、この先の未来へとつなげてゆくための標となる作品。
その舞台となった静内のまちを訪れ、今の風景に身を置いてみるのもおすすめです。

Book Information

『静かな大地』

著者 池澤 夏樹

出版社 朝日文庫

出版年 文庫版 2007年

価格 1080円(税込)

Information

新ひだか町博物館

住所 北海道日高郡新ひだか町静内山手町3丁目1

TEL 0146-42-0394

開館時間 10:00〜18:00

休館日 月曜日、年末年始、祝日の翌日、資料整理日

入館料 無料

駐車場 あり

Information

新ひだか町アイヌ民俗資料館

住所 北海道日高郡新ひだか町静内真歌7-1

TEL 0146-43-3094

開館時間 5月~11月 9:00~17:00

休館日 月曜(祝日の翌日は休館日)

入館料 無料

シャクシャイン記念館

TEL 0146-42-6792

開館時間 5月~10月 9:00~18:00、11月~4月 9:30~16:30

休館日 月曜(祝日の場合は翌日が休館日)

入館料 無料

Profile

池澤 夏樹(いけざわ なつき)

作家。1945年、北海道帯広市生まれ。小学校から後は東京育ち。30代の3年をギリシャで、4-50代の10年を沖縄で、60代の5年をフランスで過ごし、今は札幌在住。ギリシャ時代より詩と翻訳を起点に執筆活動に入る。1984年『夏の朝の成層圏』で長篇小説デビュー。1987年発表の『スティル・ライフ』で第98回芥川賞を受賞。『母なる自然のおっぱい』(読売文学賞)、『マシアス・ギリの失脚』(谷崎潤一郎賞)、『楽しい終末』(伊藤整文学賞)、『花を運ぶ妹』(毎日出版文化賞)、『静かな大地』(親鸞賞)など。自然と人間の関係について明晰な思索を重ね、数々の作品を生んでいる。
2014年より全著作の電子化プロジェクト「impala e-books」を開始。また「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」全30巻に続き、「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」全30巻の刊行を開始。http://www.impala.jp/

photo:yayoi arimoto text:akiko yamamoto

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