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SPOT 02

達人案内 作家 池澤夏樹さん

勤務地は海の上?
本当にあった“水上警察”をめぐる
事件簿『函館水上警察』の港町へ

from 北海道函館市

SHORT TRIP Guides - 北海道の小さな旅ガイド edited by コロカル
SHORT TRIP Guides - 北海道の小さな旅ガイド edited by コロカル

実は知られていない、函館の水上警察

然の良港として知られる道南の函館は、本州から北海道への玄関口としてもっとも早く開かれたまち。1799年には江戸幕府の直轄地となり、函館港は長崎、横浜と並んで国内初の対外貿易港として1854年に開港します。国際港として国内の船はもちろん外国船が多く訪れてにぎわっていたまちに、かつて“水上警察”が置かれ、港湾の警備を担っていたことは、実はあまり知られていません。

この水上警察に光を当て、明治中期の函館の姿を生き生きと描き出した『函館水上警察』は、史実にもとづいて緻密に織られた小説。書き手は、函館生まれの、元北海道新聞社記者という異色の肩書きを持つ作家、高城 高(こうじょう・こう)さんです。

1955年、大学生時代に発表したハードボイルド小説が江戸川乱歩に絶賛され、以後も北海道を舞台としたスパイ小説、アイヌ民族と北海道民の関係を描いた作品などで注目を集めた高城さんは2007年に作家活動を再開、本書は2009年に発表されました。

「明治24年の函館を舞台に、函館水上警察の次席、五条文也という警察官が、活気あふれる函館港で起こる数々の事件を解決していく物語です。当時多かったラッコやアザラシの毛皮密漁船やイギリスの東洋艦隊が寄港するなど、リアリティに満ちたエピソードを絡め、エンターテインメントとしても、非常によくできた作品です」
池澤さんはそう紹介してくれました。

明治期に建てられた赤レンガ造りの金森レンガ倉庫周辺のベイエリアは、クラシカルな雰囲気で散歩が楽しい。(photo:函館市)

函館水上警察では海上を取り締まるための小蒸気船と端艇をもち、外国語に堪能な人材が集められていました。主人公の五条文也は、アメリカでの放擲生活を経験し、英語はもとより武術やサーベルの腕にも長け、外国人相手にも引けを取らず渡り合う好人物として描かれます。

ラッコ密漁船水夫長の変死や英国軍艦の水兵失踪事件など、海や陸を舞台に繰り広げられる水上警察の活躍。それとともに、港湾で働く労働者や廻船業者、また毛皮商など、個性にあふれる登場人物たちとともに、一大国際港として栄えた函館の風景が軽妙なタッチで描かれています。

水上警察の警官たちをはじめ、物語に活気を添えるのが、激動の明治の世をたくましく生き抜く函館の市井の住人たち。それぞれの土地の方言が行き交う港町に暮らす人々の様子が立ち上がってくるようです。

海から眺める夜の函館。左上の函館山からは、美しい函館のまちの夜景を見ることができます。(photo:函館市)

本作の最後には、若き日の森鴎外が医師として函館を訪れ、研究や実践を行うかたわら、時期を同じくして函館訪れていた、アーネスト・サトウ(波瀾の江戸末期から明治維新後にわたって日本に滞在し活躍したイギリスの外交官)と出会う物語『坂の上の対話』も収録。高城高さんはのちに、この作品をきっかけに水上警察の構想が生まれたと語っています。

「明治の初期に北海道の中で函館が国際港として開けた背景には、明治維新の前に起こった箱館戦争があります。五稜郭に立てこもった榎本武揚が北海道共和国をつくろうと思い描いていたというような、史実とリンクさせながら読むのもおもしろいです」と語る池澤さんは、当時の港の様子や図版付きの船のつくり、訪れる外国の人々を受け入れるまちの細部にいたるまで、非常に良く調べて書かれていると賞賛。

ライトアップされた冬の〈五稜郭公園〉。(photo:函館市)

作中には、明治12年創業で今も名をはせる洋食店〈五島軒〉や、函館の観光名所のひとつ〈函館ハリストス正教会〉など、現代へとつながる函館の歴史をあちこちに見つけることもできます。明治時代に外国人居留地計画が頓挫したため市中に生まれた異国情緒豊かなまち並みも、現在の函館が誇る見どころのひとつ。 『函館水上警察』でありし日の函館のまちをじっくりと味わううちに、旅心がそっと動き出すかもしれません。

小高い丘の上に建つ函館ハリストス正教会。異国情緒あふれる元町エリアを散策しながら訪れてみては。(photo:函館市)

Book Information

『函館水上警察』

著者 高城高

出版社 東京創元社

出版年 2009年

価格 kindle版 658円

Information

函館ハリストス正教会

住所 北海道函館市元町3-13

TEL 0138-23-7387

Web http://www.hakonavi.ne.jp/site/course3/harisutosu.html

Profile

池澤 夏樹(いけざわ なつき)

作家。1945年、北海道帯広市生まれ。小学校から後は東京育ち。30代の3年をギリシャで、4-50代の10年を沖縄で、60代の5年をフランスで過ごし、今は札幌在住。ギリシャ時代より詩と翻訳を起点に執筆活動に入る。1984年『夏の朝の成層圏』で長篇小説デビュー。1987年発表の『スティル・ライフ』で第98回芥川賞を受賞。『母なる自然のおっぱい』(読売文学賞)、『マシアス・ギリの失脚』(谷崎潤一郎賞)、『楽しい終末』(伊藤整文学賞)、『花を運ぶ妹』(毎日出版文化賞)、『静かな大地』(親鸞賞)など。自然と人間の関係について明晰な思索を重ね、数々の作品を生んでいる。
2014年より全著作の電子化プロジェクト「impala e-books」を開始。また「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」全30巻に続き、「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」全30巻の刊行を開始。http://www.impala.jp/

photo:yayoi arimoto(book) text:akiko yamamoto

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