刻々と表情を変える神秘の湖「洞爺湖」を撮りに

札幌の新千歳空港から南西へ車で約2時間。支笏洞爺国立公園の中央に位置する洞爺湖は、約11万年前の火山活動によって誕生したカルデラ湖です。有珠山とともに2008年にユネスコ世界ジオパークに認定されたこの地は、季節や気候、火山の息吹によって姿を変え続ける、自然愛好家にとって無限の魅力を持つ場所です。
周囲42キロメートル、エリアごとに異なる絶景スポット
周囲約42キロメートルの洞爺湖を南東エリアから時計回りに進むと、まずは壮瞥町の活火山に彩られた雄大な岩肌が見えます。やがて温泉地として栄える洞爺湖町へ、そして良質なワイン産地として知られる月浦地区へと続きます。キャンプ場が点在する手つかずの自然、広がる田園風景。エリアごとに異なる美しい景観は、カメラ愛好家のみならず、自然愛好家にとって格好の訪問地となっています。
セミプロカメラマンの野呂圭一(のろ けいいち)さんは、ほぼ毎日出勤前に洞爺湖を訪れ、レンズを向けています。「洞爺湖の景色は季節や気候によって変化するので、写真を撮るといつも宝探しのような気分になります。毎日眺めていても新しい発見があるんです」と語る野呂さん。その美しさの秘密とは何でしょうか。
最高の絶景は早朝──月浦からの日の出撮影
野呂さんが特に薦めるのは、月浦地区から眺める早朝の洞爺湖です。湖の西側に位置する月浦は朝日が昇る方向に向いており、日の出の撮影に最適な条件が整っています。
「ガイドブックでよく見かけるのは、青い空と白い雲を背景にした洞爺湖ですが、私が好きなのは早朝の霧に包まれた洞爺湖です。美しく澄んだ空が湖面に映り込み、壮大な朝日とともに織りなす光景は、本当に素晴らしい」と野呂さん。この時間帯の洞爺湖は、静寂の中で刻々と色彩を変えていきます。深い紫紺から薄紫へ、やがて金色に輝く朝日が水面をなぞる瞬間──その光景は、訪れた者だけが経験できる特別な体験なのです。
カメラを手にしなくても、この雄大な朝焼けの光景は目に焼き付く思い出となるでしょう。自然の営みを感じながら朝日を迎えるのも素晴らしい体験です。
春から秋の幻想体験──雲海に浮かぶ洞爺湖
月浦地区では、春から秋にかけて幻想的な「雲海」を見ることができます。洞爺湖が海と蝦夷富士と呼ばれる羊蹄山に挟まれるという独特の地理的条件と、気温差の大きさが生み出す自然現象現象で、春から夏にかけて特に頻繁に現れます。
ポロモイ山展望台やサイロ展望台には、この神秘的な光景を狙う多くのカメラマンが集います。「雲海が見られない日中でも、展望台からは洞爺湖が一望できます。また冬場にもさまざまな表情の洞爺湖を楽しむことができます」と野呂さんは語ります。異なる季節に何度も訪れることで、この地の豊かな表情に出会えるでしょう。
活火山がもたらす豊かな自然の恵み
洞爺湖は火山がもたらす多くの恵みに包まれています。周辺には有珠山や昭和新山といった活火山が今も活発に活動しており、これらが生み出す地熱は温泉として人々を温めています。
火山灰による肥沃な土壌では新鮮な野菜や果物が栽培され、かつての火砕流によって形成された海岸線は豊かな漁場となり、獲れたての海の幸が食卓を彩ります。こうした火山の恵みは、洞爺湖での体験を豊かにしています。洞爺湖は単なる景観地ではなく、全身で北海道の自然を感じられる場所となっているのです。
刻々と変わりゆく風景——ただ一度の洞爺湖に出会う旅へ
「今撮っている風景も、10年後の噴火によって変わるかもしれません。この光景をカメラで記録することで、次の世代が私の作品を見て『あの頃はこうだった』と思いを馳せるのではないか。それが毎日、洞爺湖にレンズを向け続ける理由の一つです」。野呂さんのこの言葉は、写真の本質を映しています。刻々と変わりゆく自然の一瞬を捉えることで、時間と記憶を保存する。洞爺湖での撮影は、単なる観光写真ではなく、自然との対話であり、未来への伝言なのです。
洞爺湖は、季節によって、気候によって、そして火山の息吹によって、次に訪れるときには姿を変えているかもしれません。毎日眺めていても新しい発見がある、その美しさを求めて、カメラを手に、あるいは心を開いて旅立ってみませんか。神秘の湖は、訪れるたびに、あなただけの特別な物語を紡いでくれるはずです。











