上川のまちをブランドに変えた酒蔵の挑戦

上川のまちをブランドに変えた酒蔵の挑戦

旭川の中心部から車でおよそ50分の上川町は、雄大な大雪山連峰と層雲峡温泉に囲まれた自然豊かな町ですが、他の地域と同じように人口減少と高齢化に直面しています。町の人口も、1960年代の16,000人をピークに、今ではその2割程度まで激減。そんな町に、ミシュランの星を獲得したレストランや日本中から注目される新しい酒蔵があるなんて、にわかには信じ難い話です。それを実現した人物に、上川町での酒造りや地方創生についてお話を伺いました。

Profile

上川大雪酒造株式会社 初代蔵元

塚原敏夫(つかはら としお)さん

2012年、増毛町出身のフランス料理シェフの三國清三さんとの共同によるレストラン運営会社を上川町に設立。2017年に上川大雪酒造を設立した後、2020年に帯広市、翌年に函館市にも酒蔵を設立。

異業種からの転身

東京の証券会社で安定したサラリーマン生活を送っていた塚原さんの転機は、著名な料理人でもある友人の三國清三シェフからの相談を受けたことでした。三國シェフから、故郷の北海道でレストランを開きたいという話を持ちかけられましたが、塚原さんはどう答えればいいか分からなかったそうです。


「もちろん興味はありました。でも、飲食店の経営については何も知らなかったし、上川と聞いても山しかないと思っていて、そこに町があることさえ知りませんでした」と塚原さんは振り返ります。

パズルのピースが欠けている

上川町は、ビジネスを成功させるには難しい場所というのが塚原さんの印象でした。「美しい自然があり、山の雪景色も綺麗ですが、大雪山国立公園は国有地なのでスキー場は造れません」。そこで飲食店の開業を目指したものの、それほど簡単なこととは思えませんでした。「私たちの当初からの目標は、地元の食材を使って地域社会に貢献し、持続可能な発展を実現するレストランを作ることでした。開業したレストランの“フラテッロ・ディ・ミクニ”は高く評価され、最終的にはミシュランの星も獲得しましたが、大都市圏から安定して集客するにはあまりにも場所が遠すぎました」。塚原さんには、パズルのピースが欠けているように見えていました。

北海道産の酒米にこだわる

そのピースを埋めるため、2017年に塚原さんが始めたのが上川大雪酒造です。全国新酒鑑評会金賞受賞者の川端慎治さんを杜氏に迎え、北海道の地方創生事業として成功を収めましたが、地域社会の活性化という当初の目的は忘れていません。「うちの店舗と、上川町内の酒屋やコンビニエンスストアには商品を提供していますが、すぐ近くの旭川市でもほとんど販売していません」と塚原さん。このお酒のために、お客さんに上川町まで来てほしいという思いがあるのです。


しかし、レストランのメニューに合うワインやビールではなく、なぜ日本酒だったのでしょうか?


「日本酒は水と米で造るものです。大雪山の清らかな天然水は酒造りに最適ですし、上川町は北海道でも有数の米どころなので、ここで日本酒を選ぶのは理にかなっています」。塚原さんたちが上川大雪酒造を立ち上げた頃は、北海道内には11の酒蔵しかありませんでした。「うちは北海道で12番目、戦後初の酒蔵となりました。また、他の酒蔵との差別化を図る上でも、私たちはとにかく北海道産の酒米にこだわりました」。

明確な目的を持った酒蔵

多くの日本人にとって地元の日本酒は慣れ親しんだ味であり、戦前は全国各地に地酒がありました。本州の産地には今も酒蔵が多いものの、北海道ではその文化が途絶えていました。人口500万人の北海道に、たった11の酒蔵しかなかったのです。「私たちはネオローカリズムの時代に生きています。どこに住んでいようと、どこを訪れようと、現代人はその地域のものを購入し、地域社会を支援したいと考えています。私たちはその傾向に歩調を合わせています」。時代のニーズを受け、上川大雪酒造はすぐに大人気となりました。


塚原さんが目指すのは、荒廃したブルックリンの街を活性化するという明確な目的で建てられたブルックリン・ブルワリーのような存在です。「今ではブルックリン・ブルワリーは東京のコンビニでも買えるようになりましたが、当初は醸造所でしか飲めませんでした」。そして、ブルックリン・ブルワリーと上川大雪酒造には、他にも類似点があります。「醸造過程よりもブドウ栽培に重きをおくワインと違って、醸造過程で素材に付加価値を与えるという点で、日本酒とビールの醸造は似ています」と塚原さん。事業のさまざまな面で垣間見えるロジカルなその言葉は、ローカリズムとビジネスを最大限にマッチさせる塚原さんの姿勢そのものです。

地域社会に還元するビジネスモデル

ブランド名に「上川」を入れたのは、上川町を観光名所にしたかったからだそう。「ちょっと遠いと思いますが、ぜひ上川町に遊びに来て、うちの蔵や町内のお店でお酒を買って、層雲峡温泉で楽しんでいただきたいです。できればゆっくり滞在して、フラテッロ・ディ・ミクニにも行っていただけると嬉しいですね」。


塚原さんにとって日本酒造りは、地域社会に還元するための最高のビジネスモデルです。大成功を収めた上川町に続いて、帯広市と函館市にも酒蔵を造りました。「私は北海道が大好きです。酒蔵によって地域を活性化し、コミュニティに新しいエネルギーを吹き込む、それが私の理想とする持続可能なビジネスなのです」と力強く語る塚原さん。地方創生の創造と挑戦は、これからも続きます。

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