地域の活性化を目指す「上川大雪酒造」の挑戦

地域の活性化を目指す「上川大雪酒造」の挑戦

旭川市から約50分の上川町。大雪山連峰と層雲峡温泉に囲まれた小さな町は、人口減少に直面していました。しかし、ミシュランの星を獲得したフレンチレストランと、全国から注目される新しい酒蔵の登場で、上川町は人気の観光地に変わりました。その挑戦の中心人物が、上川大雪酒造株式会社の初代蔵元・塚原敏夫(つかはら としお)さんです。

大雪山の水と北海道産米で造る日本酒

日本酒は水と米で造られます。大雪山から流れ出る清らかな天然水、そして北海道でも有数の米どころである上川町の酒米。この地が日本酒造りに最適であるということは明らかでした。塚原さんたちは、北海道産の酒造好適米にこだわることで他の蔵との差別化を図りました。


上川大雪酒造がオープンした2017年、北海道内には11の酒蔵しかありませんでした。上川大雪酒造は北海道で12番目、戦後初の新しい酒蔵となりました。この選択が、地方創生の転機となります。


東京のビジネスマンが上川町に移住した理由

塚原さんは、かつて東京の証券会社で働いていました。順調にキャリアを重ねていた塚原さんが、人生を大きく変える決断をしたのは、著名なフランス料理シェフ・三國清三さんからの「故郷の北海道でレストランを開きたい」という相談でした。


「もちろん興味はありました。でも飲食店の経営は何も知らなかったし、上川と聞いても山しかないと思っていた。そこに町があることさえ知りませんでした」。そんな塚原さんでしたが、2012年に上川町でレストラン運営会社を立ち上げることを決めました。その決断が町の未来を大きく変えることになったのです。


ミシュラン星獲得から酒蔵の立ち上げへ

2012年にオープンしたフランス料理のレストラン「フラテッロ・ディ・ミクニ」は、地元の食材を活かした料理で高い評価を受け、やがてミシュランの星を獲得しました。しかし塚原さんは課題に気づきました。大都市圏から安定して顧客を集めるには、上川町の立地は遠すぎたのです。「ビジネスとして成功させるには、何か足りないピースがある。そう感じていました」。


そのピースが、日本酒の製造でした。2017年、塚原さんは上川大雪酒造を立ち上げました。全国新酒鑑評会で金賞を受賞した杜氏・川端慎治さんを迎え、北海道産にこだわった日本酒造りを開始したのです。


大雪山の水と北海道産米で造る日本酒

日本酒は水と米で造られます。大雪山から流れ出る清らかな天然水、そして北海道でも有数の米どころである上川町の酒米。この地が日本酒造りに最適であるということは明らかでした。塚原さんたちは、北海道産の酒造好適米にこだわることで他の蔵との差別化を図りました。


上川大雪酒造がオープンした2017年、北海道内には11の酒蔵しかありませんでした。上川大雪酒造は北海道で12番目、戦後初の新しい酒蔵となりました。この選択が、地方創生の転機となります。


「つくれば、みんなやってくる」——ブルックリンブルワリーから学んだ戦略

塚原さんが目指したのは、衰退していたニューヨーク・ブルックリン地区を活性化させた「ブルックリンブルワリー」のビジネスモデルです。当初、ブルックリン・ブルワリーのビールは醸造所でしか飲めませんでした。しかし今では、東京のコンビニエンスストアでも購入できるほどの成功を収めています。


上川大雪酒造も同じ戦略を採りました。「ブランド名に『上川』を入れたのは、町を観光地にしたかったから」と塚原さん。近くの旭川市でもほとんど販売しておらず、上川町とその周辺の酒屋やコンビニエンスストアに限定しています。このシンプルな戦略が、多くの人に「上川大雪の酒を飲みたいから上川町に行こう」という行動を促したのです。

塚原さんの成功の陰には、時代のニーズを読む力がありました。地元の日本酒は、日本人にとって懐かしく親しみやすい味わいです。戦前には、全国各地に地元の酒蔵がありましたが、北海道ではこの文化が一度途絶えてしまいました。人口500万人の北海道に酒蔵はたったの11——その現実が、塚原さんにインスピレーションを与えたのです。


「今の時代、人々はどこに住んでいても、その地域のものを購入し、地域社会を支援したいと考えています。それが私たちの強みです」。時代のニーズを受け、上川大雪酒造はすぐに大人気のブランドとなりました。


「ぜひ上川町に来てください。蔵や町内のお店でお酒を買って、層雲峡温泉で楽しんでいただきたい。できればゆっくり滞在して、レストランにも行っていただけると嬉しいですね」。塚原さんの言葉には、地域への深い思いが込められています。


北海道全域へ広がる地方創生の取り組み

上川町での成功を受け、塚原さんの挑戦は北海道全域へ広がります。2020年に帯広市に、翌2021年には函館市にも酒蔵を立ち上げました。営利活動と地域貢献という、一見相反する目標を両立させています。北海道の酒造文化を復活させるだけでなく、地方都市に新しい活力をもたらしています。


「私は北海道が大好きです。酒蔵を通じて地域を活性化し、コミュニティに新しいエネルギーを吹き込む。それが私の理想とする持続可能なビジネスモデルです」と力強く語る塚原さん。上川大雪酒造の創造と挑戦は、これからも続きます。


大雪山連峰の絶景、層雲峡温泉の湯、地元の食材を活かした料理、北海道の水と米で造られた日本酒、すべてがここに揃っています。上川町への旅で、日本の地方が直面する課題に対する一つの答え、そして次の時代への希望の物語を体験することになるでしょう。


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