温泉熱利用の可能性ー弟子屈町の事例から

温泉熱利用の可能性ー弟子屈町の事例から

冬期間の温泉宿で、地面に直接お湯を流して融雪に使っている様子を見ることがあります。温泉ファンの目線では贅沢すぎる温泉の使い方に感じますが、湧き出した温泉が使われないまま捨てられるとすれば、実はその方がもったいないのです。


温泉が持っている熱エネルギーを総合的に活かしているのが、弟子屈町川湯温泉に本拠を構え、地域密着型の医療を行っている医療法人「共生会(ともにいきるかい)」です。同法人の運営のモットーは「自給自足」と「医食同源」。それを達成するカギのひとつが温泉です。

エネルギーの自給自足

共生会は2009年に川湯温泉病院の運営を引き継ぎましたが、そのあと敷地内に新たに「川湯の森病院」を建設しました。旧病院は改装されて一部は単身者用の住宅として整備され、さらに隣接して高齢者向けの有料老人ホームもあります。これらの施設の運営に温泉熱が大きな役割を果たしています。

  • 共生会・川湯の森病院の外観

旧病院の1階は「エネルギーセンター」と呼ばれ、温泉水を溜めるタンクや地下水を汲み上げるポンプが並び、所狭しとパイプが張り巡らされています。約60度の温泉が流れるこのパイプには11台の熱交換器が設置されていて、取り出された熱は敷地内すべての建物の冷暖房と給湯の一部に使われます。その効果はたいへん大きく、一年を通じて化石燃料の使用量をほぼゼロに抑えることができるそうです。


共生会は暖房だけでなく電力の面でも自給自足を目指しており、太陽光発電の電気を施設内で使用しているほか、エネルギーセンターの一画にロータリー発電機を3台設置して温泉熱を使ったバイナリー発電にも挑戦しています。こちらはまだ試験段階ですが、65度未満の温泉で発電するのは難しいとされる中で発電目標を達成できれば、全国的に注目される施設になるでしょう。

温泉水を貯めるタンク
温泉水を貯めるタンク
熱交換と、その熱を各施設に分配するための設備
熱交換と、その熱を各施設に分配するための設備

温泉で医食同源

共生会のもうひとつのモットーは「医食同源」です。薬と食べ物は源を同じくするもので、食事に気を配ることは病気の予防や治療に役立つという考え方ですが、そのような質の良い食材を確保するのに温泉が役立っています。


共生会には医療法人では珍しい「農園課」があり、専門スタッフが各種野菜・果物やオリジナルワイン用の葡萄などを育てています。野菜を栽培しているビニールハウスにはエネルギーセンターから温泉熱の熱風が送り込まれていて季節を問わず野菜の収穫ができ、それらは病院食に使われています。冬でもサラダはこの温室育ちの野菜で賄えるそうで、温泉の熱エネルギーが野菜に変わり、それを食べた人のエネルギー源になっています。

葡萄を収穫している農園課のスタッフ
葡萄を収穫している農園課のスタッフ
ビニールハウス外観
ビニールハウス外観
エネルギーセンターから送られてきた熱風は、この設備を通してハウス内に送り込まれます
エネルギーセンターから送られてきた熱風は、この設備を通してハウス内に送り込まれます
ハウス内の様子
ハウス内の様子

農園の中で温泉熱のポテンシャルを特に感じるのが、成長を続けるコーヒーの木の温室です。当初は試行錯誤しながらの栽培でしたが、近年は毎年コーヒー豆を収穫できるようになり、今回の取材時にもハウスの天井に届くほど成長した木に赤く熟した実がなっているのを見ることができました。収穫量はまだ少なめですが、きっと患者さんも川湯温泉産の美味しいコーヒーが飲めるのを楽しみにしているでしょう。

コーヒーの木外観
コーヒーの木外観
コーヒーの実
コーヒーの実

ちなみに、熱が取り出された後の温泉は人間が入浴するのにちょうど良い温度まで下がっていて、それを敷地内に作られた足湯に注がれています。足湯は一般の方も自由に楽しむことができます。


お話を伺う中で「これをもっと大きなところでできれば、自給自足の村ができる」という言葉がたいへん印象的でした。温泉熱をシャワーなどの給湯に使うために熱交換器を導入したり、栽培用ハウスの熱源として利用する事例は増えていますが、そういった分野での温泉の可能性はまだまだあるかもしれません。

  • 病院の敷地内に設置されている足湯

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