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2020年12月、新型コロナウイルスの影響で長年の海外生活から帰国した石井さん。その後、日本中を旅する中で改めて気づいたのは、日本料理を支える農家や漁師、同志たちとの関係の大切さでした。この旅の過程で北海道を訪れた石井さんは、東部の知床周辺で、新たな可能性に出会うことになります。

「北海道では自由を感じました。行きたい場所を訪ね、地元の人と話し、調理人の視点で土地を眺めることができたんです」。しかし同時に石井さんが気づいたのは、北海道のもう一つの顔。それは、グローバル化の波の中でもまだ商品化されていない、隠れた食材の宝庫だということでした。ニューヨーク、ロンドン、そして東京のテーブルには届いていない食材が、インターネット検索ではヒットしない場所にたくさん眠っていたのです。この気づきで、今回の北海道の旅は食材をめぐる冒険へと変わったのです。

北海道東部の知床周辺で、石井さんが最も刺激を受けたのは、地元の漁師たちとの関わりでした。釣りを愛する石井さんは、ヨーロッパでの生活中からもずっと、地域の漁師との対話を大切にしてきました。「調理人として、食材がどこから来ているのかを知ることは不可欠です。漁師の仕事は私の料理の延長線上にあると考えています。だからこそ彼らと話し、時間を共にすることが重要なんです」。

知床半島の壮大な自然に囲まれた海で出会った人物が、若き漁師たちの組織「波心会」を率いる林強徳さんです。林さんと波心会のメンバーたちは、漁業を持続可能な営みとして捉えています。鮭の過剰漁獲を防ぐため、一般的には売れ筋でない魚に焦点を当てるという革新的な取り組みを実践。こうした姿勢はヨーロッパでも珍しいものです。「彼らの活動は本当に特別です」と石井さんは語ります。実際に漁師たちと一緒に海へ出て、彼らの日常に身を置くことで、初めて見えてくる食材の本質があります。それは単なる商品情報ではなく、土地の声であり、人の営みなのです。

旅の途中、石井さんは知床周辺の標津サーモン科学館を訪れました。ここで館長の市村雅樹さんと出会った石井さんは、北海道における持続可能な漁業研究の広がりに驚きました。「さまざまな研究活動の規模に驚きました。特に印象的だったのが、北海道でチョウザメを育成するプロジェクトです。これは今後の料理の新しいアイデアへとつながるかもしれません」。チョウザメはキャビアの原料として知られ、その可能性を北海道で改めて発見できたことは、石井さんにとって大きな収穫となったのです。

旅を進める中で、石井さんは知床周辺の各地で地元の食を体験して回りました。羅臼では、北海道を代表する高級食材・昆布を味わいました。羅臼産の昆布は特に高い評価を受けており、その品質の高さに石井さんも驚きます。「あまりの美味しさに、その場で昆布ラーメンも食べてしまいました」と笑顔で語ります。

また、知床周辺の温泉旅館に立ち寄った石井さんは、ほぼすべてがここの海で獲れた海の幸との出会いを経験します。比類ない新鮮さの食材を堪能し、知床の景観を眺めながら温泉に浸かる——五感のすべてでこの地を感じる贅沢な時間。「食事だけのために訪れる価値があります。ここの海の恵みの新鮮さは他では味わえません」と石井さんは太鼓判を押します。

日本料理の要として「昆布」を挙げる調理人は数多くいます。出汁の根幹をなす昆布は、日本料理の基盤として重要であり、日本で使われる昆布の9割以上を北海道産が占めています。しかし石井さんの視点は異なります。

「その国の食べ物はその地域の力から生まれる」それが彼の信念です。「北海道の昆布」という見方に執着すれば、北海道の本当の可能性を見落としてしまいます。京都で日本料理の伝統を極めた料理人の言葉は、北海道が持つ多面性を示唆しています。

日本の第一次産業の中心地が、いかにして日本料理の肝となっているか。石井さんは北海道を訪れることで、それを改めて認識したのです。「目の前にあるものを見て、その土地が与えてくれるものを活用する。これが地元食材の本当の意味です。」

石井さんが北海道で注目する食材の一つがラム肉です。確かに伝統的な日本料理の食材ではありませんが、北海道の開拓の歴史の中で育まれたラム肉は、間違いなく現在の北海道のアイデンティティを象徴する食材なのです。「日本料理は絶えず進化しています。その土地の本当の流れを理解することが不可欠です。開拓地であった北海道は、常に変化のスピードが速い。だからこそ、実際に訪れて、その時々で地元の人々がどう考えているかを知ることが重要なのです」。

石井さんの視点は、北海道に求められる新しい役割を定義しています。北海道は、日本料理の伝統を守りながら同時にそれを進化させていく場所。ここから生まれた食材や食文化は、世界の食卓を豊かにしていく可能性を秘めています。

「北海道東部の壮大な自然を身体全体で感じることで、これらの素晴らしい食材を生み出す土地への理解がより深まりました」石井さんのこの言葉は、食材との向き合い方、そして旅そのものの価値を改めて問い直させてくれます。

北海道への旅は、単に美味しい食事を楽しむことではなく、その土地と人が何世代にもわたって積み重ねてきた営みを五感で体験する機会なのです。道東での食体験と知床の自然を、ぜひ体験してみてはいかがでしょうか。